タリバンが制圧後の「アフガンの実情」を現地出身の医師に聞く【レシャード・カレッド×中田考】第1回 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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タリバンが制圧後の「アフガンの実情」を現地出身の医師に聞く【レシャード・カレッド×中田考】第1回

パキスタン国境付近を警備するタリバンの兵士。

 ■国境の往来は戻りつつある

 

中田:そうなんですね。私の30年来の友人に現在アフガニスタンで発電所関係の仕事をしている方がいらっしゃって、タリバンがカブールを制圧した815日にもカンダハールにいたんです。その方からいろいろと興味深いお話を伺いました。

 その方の会社にはタリバンと同じパシュトゥン人のパキスタン人のスタッフがいるもので、パシュトゥン人のネットワークを通じて、タリバンからカンダハール侵攻を事前に聞かされていたので、事前に無事に避難でき、状況が落ち着いてから、タリバンから戻って欲しいと言われて、今はもうカンダハールに戻って仕事に復帰していると聞いています。カンダハールから近いパキスタンとの国境は、パキスタン側ではクエッタの辺りですが、国境はどういう状況でしょうか?

 

レシャード:基本的には、国際的なルールに従っていてパスポートのような証明書が必要ということになります。しかし現実として、あの辺りに住んでいる人たちは、そういうものなく出入りしています。

 タリバンが政権をとる直前、国境付近のスピーン・ブールダクという地方をタリバンが制圧したときに、「どういう人が入ってくるか分からないという不安」からパキスタン側が国境の出入りを厳しく制限した時期がありました。

 しかしタリバンがアフガニスタン全土を制圧してからは、多くの人々がアフガニスタンからパキスタンに入国してパキスタン経由で海外に行っています。ですから今はそれほど厳しい状況ではないようです。パスポートを持っている人はしっかりビザを取って入国しますし、そうでない人も何かしらの証明書等を見せれば入れるような状況です。

 

■アフガニスタンのコロナ問題

 

中田:アフガニスタンの中で、トルコがボランティアでいろいろな活動をしていると聞きましたが、カンダハールのほうではいかがでしょうか?

 

レシャード:カンダハールにはトルコが経営している私立の男女が通う学校があります。この学校はタリバン制圧後にも活動を再開しており、今も授業を行っています。女子の授業も実際に再開しています。

 但し先ほど言いましたように、トルコにしても金銭的な部分に制限が加わっているので、それ以外の支援は限られています。

 

中田:なるほど。我々もボランティアやチャリティーをやりたいと思っているのですが、カレーズの会のカンダハールの責任者のシェルシャー先生(カレッド先生の弟)は近々日本に来られる予定はございますか?また、お金をお送りしたいときにアフガニスタンに届ける方法はあるんでしょうか?

 

レシャード:正直なところ、現時点では出入りが制限されています。特にコロナの問題がありますので、ワクチンの証明書がないと海外に出られないといった制限、あるいはアフガニスタンから出国できる便が少ないといった問題があり、現地事務所長は今年も日本に来れそうもありません。

 ですから今、お金を送る方法がないかどうかを考えて、段取りしています。多額でなければ難しくありませんから、ある程度日本からも送っていきたいと考えています。

 

中田:コロナの話題がでましたね。アフガニスタンにはそれよりも危険なことがたくさんあるので、あまり問題になっていないのかもしれませんけれども、コロナについてはいかがでしょうか?

 

レシャード:私の手元にある情報では、今、約756000人のコロナ感染者がおります。

 

中田:そんなに出ているんですね。

 

レシャード:はい。大勢出ておりまして、PCR検査をやると20%ぐらいの陽性率があります。

 但し、PCR検査ができる場所が限られておりまして、全国にあるわけではありません。ですから見えている感染者数は氷山の一角だろうなというような気もします。

 また、感染者の約4.6%が死亡しているのですが、実は困ったことに医療従事者が罹っているケースが結構おりまして、当然死亡者にも医療従事者が大勢おります。アフガニスタンの医療従事者はもちろん少なく、元々足りていないので、医療従事者がコロナに罹ったり、亡くなっているというのは本当に大きな痛手です。

 もうひとつ、これはアフガニスタンのデータの取り方の話ですが、報告された感染者は男性が主体になっていて、68%が男性です。このデータは、実際に男性の感染者が多いのか、それとも女性の感染データが表に出てこないのか、その辺りは判断が難しいところですね。 

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イスラーム学の第一人者にして、タリバンと親交が深い中田考先生が講演し解説します。
中田先生の講演後、文筆家の平川克美氏との貴重な対談も予定しております。

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    なかた こう

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    中田考(なかた・こう)
    イスラーム法学者。1960年生まれ。同志社大学客員教授。一神教学際研究センター客員フェロー。83年イスラーム入信。ムスリム名ハサン。灘中学校、灘高等学校卒。早稲田大学政治経済学部中退。東京大学文学部卒業。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。カイロ大学大学院哲学科博士課程修了(哲学博士)。クルアーン釈義免状取得、ハナフィー派法学修学免状取得、在サウジアラビア日本国大使館専門調査員、山口大学教育学部助教授、同志社大学神学部教授、日本ムスリム協会理事などを歴任。現在、都内要町のイベントバー「エデン」にて若者の人生相談や最新中東事情、さらには萌え系オタク文学などを講義し、20代の学生から迷える中高年層まで絶大なる支持を得ている。著書に『イスラームの論理』、『イスラーム 生と死と聖戦』、『帝国の復興と啓蒙の未来』、『増補新版 イスラーム法とは何か?』、みんなちがって、みんなダメ 身の程を知る劇薬人生論、『13歳からの世界制服』、『俺の妹がカリフなわけがない!』、『ハサン中田考のマンガでわかるイスラーム入門』など多数。近著の、橋爪大三郎氏との共著『中国共産党帝国とウイグル』(集英社新書)がAmazon(中国エリア)売れ筋ランキング第1位(2021.9.20現在)である。

     

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